乗降者数最下位の西国分寺に27万人が訪れた。クルミドコーヒーからはじまる贈り合う社会

17.05.15

乗降者数最下位の西国分寺に27万人が訪れた。クルミドコーヒーからはじまる贈り合う社会

西国分寺駅からほど近い場所にあるカフェ、「クルミドコーヒー」。

同店は、2008年のオープンから本の出版、音楽演奏会、哲学対話の場など、カフェの範囲にとどまらない活動を続け、2013年には食べログ(カフェ部門)で全国1位になりました。全国的にも有名なカフェである一方で、実は最寄りの西国分寺駅はJR中央線・乗降者数最下位の駅でもあります。

人を集めるという点において、決して適しているとは言えない場所。どんな思いがあり西国分寺にお店を構え、そして、お店が知られていったのか。

クルミドコーヒー店主の影山知明さんに、地域への思いや、大切にしている考えについて伺ってきました。

 

 

西国分寺に期待はしていなかった


お店の場所として西国分寺を選んだのは、自分の生まれ育った家が空き家になり建て替えることになったのが、そもそもの始まりです。
 

シェアハウスとシェアハウスが複合した「マージュ西国分寺」という集合住宅の1階にカフェがあったならと考えました。

 

 
マージュ西国分寺に住む人や働く人、西国分寺に暮らす人々が気軽に交流できる「地域のお座敷」のような場所になれば、と。相談した仲間からのすすめもあり、自分でやることにしました。元々、必ずしもカフェをやりたい気持ちがあったわけではありません。ただ、ピンときて、「こっちの気がする」というセンサーのようなものは働いたのだと思います。

 

そのような経緯で始めることになりましたが、最初は西国分寺という地域に何も期待していませんでした。ただ、お店を続けていくなかで地域への思いは変化していきました。お店をやればやるほどお客さんとの出会いがあります。地域のお店との関わりもあります。そうした一つ一つの出会いや記憶の集積として、西国分寺という地にも愛着を感じるようになりましたね。

 

 

現実的に、お客さん同士はつながらなかった


カフェのオープンから1年経ち、「クルミドの夕べ」というお話し会を始めました。通常営業の中から、自然と人と人との出会いが育っていけばという思いがありましたが、現実にはなかなかそうはならない状況もありました。

どうしたらお客さん同士の対角線を増やせるのか、その考えの一つの試行の形が、「クルミドの夕べ」の開催でした。
ただ一方で、最初はイベントを開催することに抵抗感がありました。カフェにとって通常営業が一番大事であり、まっとうすべきこと。イベントによって出せるメニューや営業時間が変わったり、サービスの質が落ちたりすることは、あってはいけないです。

そのためクルミドの夕べに関しては、月曜夜の2時間だけ、席も地下の階のみに限定することにしました。これまで計127回やってきましたが、この間、自然とお客さん同士に顔見知りになり、ここが出会いの場となった縁も育ってきています。

 

 
話すテーマは、カフェの可能性や地域がどう活性化するか、経済のことなど多岐にわたりますが、一貫していることが一点あります。それは、常識が絶対ではないということ。

今ぼくらが「そういうもの」と考えてしまっていることも、見方を変えれば必ずしもそうでもないということを、手を変え品を変え、お話ししてきている感覚です。

例えば、ビジネスや経済の考え方もそうですね。自分はカフェを始める前、経営コンサルティングや投資ファンドの仕事をしてきましたが、それらの仕事の場面ではお金が何より大事で、成長や効率が強く求められます。そのことがもたらすダイナミズムや面白さも間違いなくありますが、一方、どこか満たされない感情をずっと抱いていました。

そのときの経験と比較したときに見えてくる、クルミドコーヒーを通じた「もう一つの」経済や働き方の可能性というテーマは、これまでクルミドの夕べでも何度も話をしてきた話題です。そしてそれらの気づきは、2015年、「ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~」という本の出版にもつながりました。

 

 
また、フランスのカフェでの体験をきっかけに、「クルミドの朝モヤ」というお話し会哲学カフェを2012年から開始してもいます。

 

 

事業計画は立てない


ぼくらのお店では、「クルミド出版」とい出版事業や「音の葉コンサート」という小編成のクラシック演奏会を定期的に行っています。いずれの取り組みも計画だて決めたことではなく、人との縁がつながった結果ですね。

 

 
縁が育つのには、事業計画を立てないようにしていることも寄与していると思います。事業計画が強くあり過ぎると、その計画達成が目的になってしまい、日々の営業を通じて目の前で起こっている予想もしなかったような出会いやアイデアをキャッチできなくなってしまいます。

むしろ、いま目の前で起こっている現実に丁寧に接していくことが、縁を育てることになるわけで、それこそ、力のある面白い取り組みでお店を成長させていてく最良の方法論なのではないかと思うのです。

 

 

お客さんと「贈り合う」関係を築く


クルミドコーヒーができてからしばらくして、西国分寺の駅中開発が始まり、タリーズさんや、ミスター・ドーナツさんなど大手カフェ店がオープンしていきました。当初は売り上げが減る心配もしましたが、結果として影響はまったくと言っていいほどありませんでした。お客さんの中で、棲み分けをしてくれているのかなと思います。

 

 
チェーン店では会社としての売上目標があり、できるだけ少ないコストで、できるだけ多くの利益を得ようとするのが通常です。そして店側のテイクの姿勢を感じるとお客さんの中の「消費的な人格」が刺激されます。できるだけ安い料金で、できるだけ多くのサービスを求めるようになる。そして、お互いがテイクし合う関係になる。

クルミドコーヒーでは、値段以上に価値のある時間を提供することを目指しています。それが実現できお客さんが「ああ、いい時間だったな」と感じてくださるようなことがあると、それは「健全な負債感」とでも呼ぶべき心情につながり、「ああ、何かでお返ししたい」という気持ちにさえなってくださることがあると思うのです。こうした、ギブとギブバックという関係でぼくらのお店が成り立っているのだとすると、チェーン店での経験とは自然と違うものになっていくのではないでしょうか。

こうした「きれいごと」みたいなことも、それをちゃんと貫けば、売上や持続可能な経済性につながっていくと信じています。ただ軌道に乗るまでは時間がかかるのも現実ですね。その点、マージュ西国分寺の大家としての収入などがあったことは、大きな助けになりました。

 

 

カフェは人を癒す場、励ます場


カフェにできることは、お客さんにいい時間を過ごしてもらうことで、逆に言うとそれ以上にカフェにできることはないんじゃないかと思うんです。

 

 
来たときよりも元気になる──クルミドコーヒーはお客さんにとって、そういった場であり続けられたらと考えています。日々の生活で、仕事で、人間関係がうまくいかなかったり、自分自身との付き合い方に苦労していたり、生きることは簡単でないですね。弱っているとき、傷ついたとき、そんなときこそ「あの場所に行こう」と思ってもらえるような場所になれたなら…。カフェ冥利に尽きますね。

 

 

大事な人の範囲が広がっている


今では西国分寺に住んでいる人も多く来店されますが、最初は地元の人こそ来てくれませんでした。誰しもそうだと思うのですが、「また新しいお店ができた、まあもって半年じゃない?」などと身近な人であるほど、斜に構えるようなところ、あるんじゃないでしょうか。

最初のうちはむしろ、吉祥寺とか国立とか、少し離れたところの人などが来てくれて、そこから口コミで広がっていき、時間とともに訪れる人の数も少しずつ増えていきました。
数年が経ってようやく西国分寺のお客さんも増えてきて、ちょっとずつ「認めてもらえたのかな」と感じるようになりました。

 

 
そして、現在までで累計27万人の人がクルミドコーヒーに訪れてくれました。それも多くがわざわざこの地を目がけて出かけて来てくださり、短くはない時間を過ごしてくださった、そういう出会いが27万回あったということです。それはとても大きなことだと思っていますし、自分にとってもそれだけ大事な人が増えてきた過程でもあるのです。

 

 

「外れ値」のような街にしたい


西国分寺を「外れ値」のようなまちにしていきたいですね。外れ値というのは統計学用語なのですが、例えば出生率が普通は1.4だけど、西国分寺はなぜか3.0である、市長選の投票率も90%を下回ったことがない、というような具合に、ですね。「他の地域とちがうね」「なぜここだけ?」と言われるようなまちになったら面白いですね。

お客さんとの支援しあう関係を積み上げた先に、いい意味で外れ値な地域が育っていったらいいなと思います。今の社会や、今のやり方の中でうまく自分の居場所を見つけられていない人にとって、「こういうやり方もあるかもしれないよ」と、対案を示せるような地域になったらいいなと思うんです。

 

 
もっとも、どういうまちが育つかというのは、コントロールできることではありません。そのゴールイメージを強く持ちすぎることは、そこまでの過程や、人間関係をも手段化してしまうことにつながりかねません。社会やコミュニティが主語なのではなく、あくまでもここにいる「私」と、目の前にいる「あなた」とがどうあるか。どう関わるか。「私たち」がいい関わり合いをする先にこそ、地域の未来があると信じています。

ですから、ぼくらの本分、ぼくらが一番大事にするべきことは、常に、いま目の前にいる人を大事にすることなんだろうと思うのです。

 

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