映画館、貸本屋、写真館…街から消えた風景を「シネコヤ」に集めて。

映画館、貸本屋、写真館…街から消えた風景を「シネコヤ」に集めて。

映画を楽しむ、新しいスタイルの場が神奈川県・鵠沼海岸に誕生しました。そこは、映画館でも、ミニシアターでもなく、「シネコヤ」。

シネコヤは貸本屋、パン屋、そして映画が一緒に楽しめるような空間です。ゆったりとしたソファで映画を見ながら、自家製天然酵母のパンを食べ、コーヒーを飲みながら本を読むことができます。
2009年からNPO団体で活動が始まり、2017年4月に鵠沼海岸にて常設店がオープン。

かつての街々にあった映画文化、そして消えていった懐かしの風景を残していくために、シネコヤは作られました。
今回は代表の竹中翔子様に創業のきっかけや、藤沢市・鵠沼海岸への思いについて伺ってきました。

 

 

映画そのものより、ロビーの空気感が好きだった




 

私自身、子どもの時から映画に触れていたわけではありませんでした。映画館デビューも中学生と遅めで、家族と一緒に見に行ったことは一度もなかったです。

映画に特別興味があった訳ではない私が、大学時代に映画館「フジサワ中央」でアルバイトをしようと思ったのは、館内の雰囲気に強く惹かれたからでした。その当時過ごしていた場所として、映画館のロビーやロビーにたまるお客さんの雰囲気がすごく好きだったんです。もう一つの地元の歴史ある映画館であった「藤沢オデヲン」にはお客さんとしてよく通っていて、二館とも思い出深い場所でした。

 

 

街の景色が、面白くなくなった


しかし、2007年に藤沢オデヲンが、2010年にフジサワ中央が閉館。藤沢以外の地方でも、映画館が軒並みなくなっていた時期で。街から映画館がなくなっていくことがすごく寂しいと感じました。
思い出のある個人店がなくなり、チェーン店ばかりになっていたんです。それを見て、消えていく街の風景をなんとかしたい、建物も含めて残していきたいという気持ちが芽生えました。

 

 

飲食店を開業する規模で、映画も楽しめる空間を




 

自分のできる事から少しずつ始めてみようと思い、当時ボランティアで手伝っていたNPO団体で、毎月映画の上映を開催していきました。内輪とすこし広げたくらいの規模でしたね。そんな中、ふたつの映画館の閉館。藤沢市は人口も少ない訳ではないし、地方の中でも田舎ではない。それでもなくなってしまうんだと、「映画館はもうダメだ!」と新たなスタイルでできないかと考え始めました。

小規模で、飲食店を開業するくらいの敷居の低さで映画も楽しめる空間をつくれたら、大ホールの映画館とはちがう形で、地方に映画文化を残せるんじゃないかと。やんわりとですが、当初から考えはじめていました。

 

 

NPO団体の火災。そしてシネコヤが本格的始動




NPO団体で活動を続けていたものの、具体的な理想もなく、ただのサークル活動になってしまっていると感じていました。

もうワンステップ次のところにいきたいと思っていた時に、突然NPO団体の事務所が火事になってしまいました。2013年の出来事です。建物は全焼。映画の資料なども全て燃えてしまいました。ショックも大きかったですが、なにかこう、リセットされた感覚も同時にありました。

この火事をきっかけに、改めて何をやりたいのか考え始めました。そして現在のような、映画をみながら美味しい物も食べれて、本も読める場を作ろうという具体的なイメージができ、シネコヤとして本格的に動きはじめました。

 

 

場所は藤沢にこだわった




新しい場所でシネコヤを始める際に、藤沢にこだわったのはありますね。どこでもいいじゃないかという話もあったのですが、学生時代に過ごした思い出のある映画館を、藤沢に残したい気持ちが強かったんです。

また私には子供がいるんですけど、この街で育っていくときにそういう場所がなくて、遊ぶなら都内へ行ってしまう、というのが嫌で。地元でそういうものに触れられる場所があったほうがいいなと。私の思い出や子供への思いが、藤沢につくった強い動機になっています。

 

 

誰かの居場所であってほしい




シネコヤが誰かの居場所であってほしいと願うのですが、原点は、学生時代の居場所が映画館のロビーだったことにあります。それは、シネコヤにも反映されているようです。当時のフジサワ中央を知る人に、2階が中央のロビーに似ていると言われました。

2階の空間は、中央のロビーはイメージしていませんでしたが、原体験が無意識に働いているんだと感じました。

また、映画館や古本屋がなくなっても、生きてはいけますよね。でも、芸術や文学があるからこそ生活や人生が豊かになります。シネコヤも、誰かの心を癒せるような場所であれたらと思います。

 

 

街から消えていった風景を残す




シネコヤでは貸本屋をメインで行っています。貸本屋も街から消えていった風景の1つです。また、今の建物はもともとカンダスタジオという写真館でしたが、古い写真館もどんどんなくなっています。シネコヤでは街から消えていった風景を、大事に、残し続けていきたいです。

 

 

コミュニティ作りは意図せず、自然発生するもの




 

シネコヤではお客さん達の会話が自然と生まれます。映画を見た後に感想を言いあっているので、「お友達同士だったんですね」と話しかけると、「いや、今日初めて知り合ったんです」ということが、度々あります。

藤沢はアクティブな人が多い地域ですね。まわりに話しかける人もいて、シネコヤの説明を他のお客さんにする事もあります。でも基本的には放置して、自然なコミュニケーションに任せています。

このスタンスにも近いのですが、最近の地域コミュニティを作る動きがあまり好きじゃないんです。藤沢でも行政主体で開かれているものもありますが、その場限りで終わるケースが多い。繋がりは自然発生的に生まれるから機能するんであって、意図するものではないと思います。

居心地がいい空間になれば、一人一人が本来の自分に立ち戻れます。そして能動的に動いたときに、共感した人達がいればコミュニティになります。それが継続的な場になり、街の風景を残していくことにも、繋がっていくと思いますね。

 

 

街々に合ったスタイルのシネコヤを




シネコヤとして展開していくつもりはなく、各地でシネコヤのスタイルを真似してもらうことが目標ですね。現在、「シネコヤ」は固有名詞ですが、今後は「映画館」「ミニシアター」にかわる新しい言葉として、代名詞的に各地で広がってゆくのが理想です。

それらの「シネコヤ」は街々でスタイルが違うべきだと思います。住んでいる人も違えば、土地も違います。ここの場所では、3か月経って、この街や人に合っているなと感じますね。お客さんからは、横浜まで行っていたけど自転車で行けるようになって嬉しいですとか、文化的な場所があって喜びがある、という声を頂きます。

この土地にフィットしているのは、3年間鵠沼海岸でイベントをやり続けた経験があるからです。1駅ずれていたり、藤沢駅でやっていたりしたら、違うシネコヤができていました。ここの建物の空気感をふくめて、この場所に合っているなという、感覚ですね。
自分も空気も、流れて変化していきます。常に感覚をキャッチして、場により合ったシネコヤでありつづけたいです。

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